はじめての街
ペンダント
私の名前はエクリュ。エクリュ・シンガヒール。神聖シンガ帝国ヒール王朝の王女なんだ。もうすぐ16歳になるの。
「エクリュ。そなたに渡したいものがある。」
今私に話しかけてくれたこの人はアンリっていうの。アンリ・ビーズル・キサエナ。私の友達で、何かとよくしてくれる優しい人なんだよ。
お隣の国の王子様なんだって。
「何?」
「別に。大したものではないのだが・・・。」
なんだろう。アンリがくれた箱を開けてみると・・・
「うわぁ〜っ! クマさんのペンダントだぁっ!
可愛い〜〜!」
「それを買うとき・・・少し恥ずかしかったのだぞ。」
「・・・わざわざ買ってくれたの?」
「えっ?いっ、いや!そういうわけでは・・・なんだ、その、街を歩いている時たまたま見かけたから気まぐれで買ってみたというだけの話であって・・・
そう、それでいらなくなったから・・・そなたに・・・。」
「じゃあアンリはつけないの?このペンダント。」
「たわけが!私にそんな子供じみた装飾品が似合うわけなかろう?」
「そうかなぁ・・・。あっ、じゃあ私は?どう?似合ってる?」
「ああ。よく似合っ・・・い、いや・・・フン、そこそこだな。」
「そ!ありがとアンリ!」
「いや、今のは別に褒めていたわけでは・・・」
「・・・ホントに可愛いなぁ、このペンダント・・・。」
「街に出れば似たようなものはいくらでも売っているぞ。」
「そうなんだ。街ってけっこうすごいんだね〜。」
「なんだ、そなた街に遊びにいったことがないのか?」
「うん。一人で街に出るのは危ないってお父様が」
「過保護な父親だな。」
「でもいいお父様だよ!明日はお父様がコンサートに連れて行ってくれるの。」
「コンサートって・・・クラシックの?」
「うん!あ、アンリも来る?えっと・・・姉さんも一緒なんだけど」
「姉さ・・・あのエービラか!? 遠慮しておく!」
アンリと私の姉さん・・・エービラ姉さんは婚約者、結婚の約束をしてるの。姉さんはアンリに会いたがってるみたいなんだけど、
でもアンリは無理矢理させられた婚約だ、とかなんとか言って姉さんとはあまり会いたがらないんだ・・・。
「じゃあ、今度またコンサートの話聞かせてあげるね。」
「ああ。楽しみにしておく。」
「じゃあ、またね。ペンダントありがとう!」
「ああ。・・・あっ、エクリュ!」
「?」
「その・・・一人で街に出れないというのなら・・・今度。また今度、私が街へ連れて行ってやろう。」
「えっ・・・いいの?」
「ああ。」
「ありがと!」
馬鹿女
クマさんのペンダントっ♪いいなぁ〜。可愛いなぁ。
街に行ったらこんな素敵なものがたくさんあるんだよね。早く行ってみたいな〜。・・・今度っていつかな。明日はコンサートがあるからあさって以降だよね。ふふ、このペンダント、コンサートにもつけていこっと!
「ただいま〜、私のお部屋〜!」
ガシャン!
「!?」
いたたた・・・ビックリしたぁ。何コレ・・・ツボ?なんでツボなんかが私の部屋に・・・
「エクリュッ!!」
「!」
エービラ姉さんだ。私の3つ年上の姉さんよ。どうしたんだろう、今姉さんすごく怒ってる・・・
バチン!
「!?」
ぶ・・・ぶたれた!ほっぺビンタされちゃった・・・。姉さん、私に怒ってるの・・・?
「エクリュ!お父様の大事なツボ!あなたが持ち出していたのね!」
「えっ!?」
「まぁ、こんな粉々にしちゃって!」
「ちっ、違うわ姉さん!私じゃないっ!」
「あら、シラを切るつもりかしら?あなたじゃないとしたら誰が犯人だっていうの?」
「それは・・・・・・」
「ホラ、答えられないじゃないの。」
「でも姉さん!私ホントに・・・」
「まだ言うの!?まったくどうしようもない馬鹿女ねっ!」
「・・・!」
「あなたみたいな馬鹿女にはコンサートに行く権利なんかないわ!あなたは一人で留守番でもしていればいいのよ!」
馬鹿・・・女・・・。
「今日の出来事はぜ〜んぶ!お父様にお伝えするからね!ホホホホホホ・・・」
嘘・・・。私がやったの?私がお父様のツボ割っちゃったの?私・・・私、コンサート行っちゃだめなの?
コンサート当日
お父様は姉さんとコンサートにでかけた。お父様は昨日のことを許してくれたんだけど、
でも、昨日の姉さんの言葉が気になって。だから私は・・・
行かないことにした。そう・・・だよね。私、コンサートに行く権利なんてないんだよ。
落ち込んだ時はよく城の近くにある森の奥に行くの。
昨日アンリと会った場所。私もアンリもよくその場所に行くんだ。
そこは崖があって、見晴らしが良くて。
落ち着いた気分になれるから。
今日も元気がでるかなって思ってきてはみたけど・・・。でも・・・なんか・・・。
「エクリュ?」
アンリの声。いつもなら挨拶して、それから何かおしゃべりするんだけど・・・。
「今日はコンサートではなかったのか?」
コンサートなんて行けないよ。だって私・・・
「馬鹿女だもん。」
「は?」
「行く権利・・・ないもん。」
「・・・何かあったのか?」
「・・・。」
「エクリュ?」
「・・・。」
「仕方のないやつだな・・・。」
「…。」
「エクリュ!」
「!?」
顔を上げたらそこには紫色のたてがみを持つライオンが。
実はアンリ、ライオンに変身することができるの。
このライオンはアンリのもうひとつの姿。
だけど、なんで今ライオンに変身なんか・・・
「乗れ」
「え?」
「コンサートに行けなくなって、することがなくなったのだろう?暇つぶしさせてやる。」
アンリが連れてきてくれた場所。それは・・・
「うわぁ・・・」
はじめての街
街。昨日アンリが話してくれた街だった。
「にぎやかなところだね・・・。」
「そなた、自由に外出することが出来ないと申しておったからな。今日くらいは楽しんでも構わないだろうと思うが。」
「・・・。」
「楽しくなさそうだな?」
「え?」
「城に帰りたいか?」
「あっ、えっと…そっ、そういうんじゃなくて…これは…だから…」
「帰るのか帰らないのか!」
「かっ、帰りたくないです!」
「よし。」
こ…恐かった…。
「では…行くかエクリュ。はぐれてはならんぞ。」
アンリはそう言って街を案内してくれた。
大通りみて回ったり、路地裏に行ってみたり、本屋さんで本を買ってもらったり…。道端でお手玉をしている人もいた。あれは…?
「大道芸、だな。」
「知ってるの?」
「路上において、不特定多数の観客を相手に演ぜられる芸のことだ。芸が素晴らしければ観客は投げ銭をする。あれはジャグリングと呼ばれる大道芸だな。」
「す…ごい…こんなのはじめてみた…」
「ふん、まぁ、下手なコンサートよりは面白みがあっていいだろうな。」
「…アンリ、もしかして私がコンサートに行けなくなったから…?」
「知らぬな。」
似合っている
アンリは少し微笑んで、小銭を道においてある帽子の中に投げ入れた。
「…気にするなよ。」
「え?」
「どうせまたエービラに何か言われたのであろう?」
「…。」
「そなたは何も悪くない。」
「…。」
「そなたは頭は悪いが人柄はいい。例え、あの女がそなたを悪人扱いしたとしても…私はエクリュを信じよう。」
「アンリ…。」
「だから…あまり溜め込むな。悩みがあれば相談しろ。望みがあれば私がかなえてやる。私は…そなたの味方だ。もっと頼れ。」
アンリ…落ち込んでる私のこと、心配してくれてたんだ…。
「ありがとう、アンリ…。」
「言うには及ばん…。」
ペンダントといい、今回のことといい。アンリはいつも私に気を使ってくる…優しくしてくれる。頭が悪いっていいつつも見捨てないでいてくれる。アンリにはいつもお世話になりっぱなしだ。
「そういえばエクリュ。」
「何?」
「昨日のペンダント、つけてきてくれたのだな…。」
「へへ、だって可愛いもん。気に入ってるよ!」
「そうか…それは何よりだ。」
「うん!」
「…よく似合っている。」
「そ!ありがとアンリ!」
「…ん。」
「大事にするね、このペンダント!」